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米景気後退の予兆「逆イールド発生」 どうなる!?新興国通貨

今世紀3回目の米債逆イールド発生

米国の債券市場で、10年債利回りが2年債利回りを下回る長短金利の逆転現象が起きている。7月第三週終了時点の10年債利回りは2.915%、2年債利回りは3.120%だ。通常、長めの金利には時間的リスクが上乗せされるため短めの金利より高くなる。つまり、10年債利回りから2年債利回りを引いた数値はプラスになるのが普通で、この状態を「順イールド」という。しかし、景気後退への警戒感が強まると長めの金利に低下圧力がかかり、金融政策に敏感な短めの金利を下回る「逆イールド」が稀に発生することがある。なお、米債市場における「逆イールド」発生は今世紀に入って3回目となる。足元の米債市場では、まさに利上げによる景気後退を懸念した「逆イールド」が起きていると考えられる。

【直近一年の米10年債利回り、米2年債利回り、10年・2年利回り格差】

リーマン・ショックとコロナ・ショックの前にも逆イールド発生

米債市場で「逆イールド」が発生すると高い確率で半年から1年半程度のタイムラグをもって米景気が後退期に入ることが知られており、直近では2019年に発生した「逆イールド」が2020年のコロナ・ショックによる景気後退を予見していた例がある。それ以前は、2005年から2006年にかけて「逆イールド」が発生すると、2007年にサブプライム(住宅ローン)・ショックが起こり、2008年のリーマン・ショックに繋がった。

【過去の米債逆イールド】

米景気後退期にはドルが上昇

米国の景気サイクル認定を行う全米経済研究所(NBER)によると、コロナ・ショックによる米国の景気後退期は2020年3月と4月の2カ月間のみにとどまったが、サブプライム・ショックによる景気後退期は2007年12月から2009年6月までの18か月間に及んだ。この間、為替市場ではいずれもドルの総合的な価値を示すドルインデックス(インターコンチネンタル取引所=ICE算出)が上昇したことが確認できる。

【米景気後退期のドル高】

米景気後退期には新興国通貨が下落

コロナ・ショック後の景気後退期は基軸通貨のドルが上昇した他、コロナ対策で優等生だった台湾ドルや安全通貨の円が上昇した。サブプライム・ショック後の景気後退期でもドルと円およびスイスフランが上昇。政府が大規模支出で経済を支えた中国人民元も上昇した。一方、この間新興国通貨は軟調だった。コロナ・ショック後は2カ月間でメキシコペソがドルに対して19.8%下落したほか、ブラジルレアルが18.4%下落、南アフリカランドも17.0%下落した。サブプライム・ショック後は18カ月間で韓国ウォンが27.4%下落したのを筆頭に、トルコリラが23.2%、メキシコペソも17.3%下落した。

【米景気後退期の通貨騰落率(対ドル)】

米景気後退で新興国通貨安のメカニズム

米国の景気後退が新興国通貨の下落圧力になるメカニズムはこうだ。世界最大の経済規模を誇る米国の景気が後退することで世界的に景気が悪化に向かうとの懸念が広がる。金融市場でリスク回避の動きが強まり、安全資産とされるドル、円、スイスフランに上昇圧力がかかる半面、経済が脆弱な新興国の通貨に対する下落圧力が増す。ドル高が進めば、新興国のドル建て債務が膨らむため、債務不安の高まりから資金流出が加速するという悪循環に陥る。

今局面では、米債市場の「逆イールド」は米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げペースの拡大を示唆した4月に初めて発生。これが近い将来の米国景気の後退を示唆しているとすれば、早ければ年内にも新興国通貨の下落が始まる可能性がある。仮にそうなれば、次の米景気回復期までの間は、新興国通貨にとって冬の時代になるだろう。