研究員レポート

「米CPIとスタグフレーション」外為どっとコム総研 中村

2022年4月14日

米・消費者物価指数(CPI)は40年ぶりの水準

2022年2月の米国消費者物価指数(CPI)が前年比+7.9%と1982年1月(同+8.4%)以来の高水準となりました。

そして、世界経済は兼ねてからの原油ひっ迫懸念に加え、ロシアによるウクライナ侵攻の影響から穀物から鉱物まで幅広い供給懸念が台頭。スタグフレーション懸念と言う言葉が広がり始めています。

スタグフレーションってなに?

そもそもスタグフレーションとは何のことなのでしょうか?

スタグフレーションとは…

停滞を意味するスタグネーション(Stagnation)と

物価上昇を意味するインフレーション(Inflation:インフレ)を組み合わせた造語で、

景気が後退しているにもかかわらずインフレが同時に進行する現象のことを指します。

例えば、戦争や災害などによる外的要因により原油などの供給能力の低下(供給量の減少)によって総需要に供給が追い付かずに価格が上昇してしまう現象がそうです。景気後退期により賃金が上がらないにも関わらず物価が上昇してしまうため、消費者には厳しい経済状況となります。

2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻したことをきっかけに、エネルギーや穀物、鉱物と言った主要コモディティ輸出国ロシアへの制裁により、コモディティ価格が高騰したことが消費者物価の高騰(行き過ぎたインフレ)を招き、世界経済の成長を圧迫するとの懸念が強まりました。

スタグフレーションは40年前にも起きていた

冒頭の「40年ぶり高水準の米CPI」ですが、図1を見ると分かるように米国のCPI(インフレ率)は1970年代後半から80年にかけて大幅に上昇し、その後低下。実は米経済がスタグフレーションから回復途中に記録した数字だったのです。

では40数年前に何が起こり、そして経済はどのように回復したのでしょうか。 当時を振り返り今後の金融政策を予想していきたいと思います。

40年前に何があったのか?

1970年代後半の米国は、第1次、第2次オイルショックによる原油価格高騰などの影響で10%を超えるインフレに見舞われていました。そして、高すぎるインフレによる経済の減退によりスタグフレーションに陥っていました。

そこに登場したのがポール・ボルカー氏です(1979年8月にFRB議長に就任)。

スタグフレーションをどうやって克服?

ボルカーFRB議長は就任直後から徹底したインフレ退治を断行。のちにボルカー・ショックと呼ばれる金融引き締め策を導入しました。就任当時11%台だったフェデラル・ファンド金利(FFレート)は1981年6月までに20%まで引き上げました(※ボルカーFRB議長が導入した新金融調節方式では、政策目標をFFレートからマネーサプライに変更したため、FFレートは乱高下しました)。

この金融政策によりインフレ率は低下に向かい、1980年には最大で前年比14.7%あったインフレ率が、1983年には2.5%まで下落しました。

一方で高金利の影響から失業率は10.8%まで上昇。GDP成長率は前期比で見ても低下することが目立つようになりました。

インフレの高騰は抑えたものの、景気のさらなる悪化から市民の反発を受けて1982年後半には金融引き締めを終了し、金融緩和へと金融政策の舵を切りました。

金融政策変更のかいもあり、米経済は活気を取り戻し、その後のグレート・モデーション(大いなる安定)へと繋がりました。

現在の世界経済とスタグフレーションのゆくえ

2020年に始まった新型コロナウイルスのパンデミックなどの影響から世界では原油をはじめとしたエネルギー不足への懸念で原油、天然ガス、石炭といったエネルギー価格が高騰しました。

米国の7.9%をはじめ主要国ではインフレが加速しています。

ここにロシアのウクライナ侵攻が起き、エネルギー価格のみならず穀物や鉱物など、ウクライナ、ロシア産の資源輸出が滞る懸念が浮上し、商品価格がさらに上昇。行き過ぎたインフレがスタグフレーションを引き起こす可能性がささやかれ始めています。

このまま、40年前の米国と同じようなスタグフレーションへ突入していくのでしょうか。

政府・中央銀行は何をするべきなのでしょうか?

既に主要国政府が動いていますが、エネルギー資源の確保をすることがあげられるでしょう。産油国への増産要求や、米国、カナダなどの産油国でありながら、OPECプラス非加盟国での増産を即す行動です。ただし、OPECプラス加盟国には国内情勢や産油量が既に限界に近い国もあります。おいそれと大幅増産を出来るものではありません。ましてや世界で3番目の産油量を誇るロシア(2019年実績)産の原油は世界各国で禁輸の機運が高まっています。戦略石油備蓄の放出をしたとしても、中長期的に見ると原油をはじめとしたエネルギー資源の逼迫は避けられないと考えています。

中央銀行はインフレが加速しすぎないように金融政策の調整を行い景気の舵取りを行うことが有効だと思います。

金融引き締めを行いすぎるとボルカー・ショックの様に景気が大幅に悪化するのではないかとの懸念もありますが、当時の経験を糧に中央銀行も同じ轍を踏まぬように政策を採っていくでしょう(政策執務者は変わりましたが)。

個人投資家において、過度な楽観論や悲観論に惑わせられぬように、日々の情報収集をはじめアンテナを張っておく必要があるでしょう。日々とはいかずとも定期的に、しっかりと情報収集が出来る媒体を見つけておくことで、短期的と長期的な見通しが立てやすくなります。そうすることで、あふれる情報に振り回されることなく地に足を付けた投資活動が出来るようになるのではないでしょうか。