「失業率5.2%、デルタ変異株感染拡大がサービス業に影響か」米8月雇用統計レビュー
米労働省が2021年9月3日に発表した8月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数23.5万人増、(2)失業率5.2%、(3)平均時給30.73ドル(前月比+0.6%、前年比+4.3%)という内容であった。
(1)非農業部門雇用者数
8月の米非農業部門雇用者数は前月比23.5万人増と市場予想(73.3万人増)を下回り、前月の105.3万人増(94.3万人増から上方修正)から増加幅が大きく縮小した。業種別ではレジャー・接客の伸びがゼロとなり、デルタ変異株の感染拡大がサービス業を直撃した格好。雇用情勢を基調的に見る上で重視される3カ月平均の増加幅は75.0万人へと減速したが、6月分と7月分が合計で13.4万人上方修正された事もあって大幅な落ち込みには至らなかった。
(2)失業率
8月の米失業率は前月から0.2ポイント改善して5.2%となり、2020年3月以来の低水準を記録。低下は予想通りだった。また、労働力人口に占める働く意欲を持つ人の割合である労働参加率は前月から横ばいの61.7%であった。そのほか、フルタイムの職を希望しながらパート就業しかできない人なども含めた広義の失業率である不完全雇用率(U-6失業率)は8.8%と、前月から0.4ポイント改善した。
(3)平均時給
8月の米平均時給は30.73ドルと、前月から0.17ドル増加(+0.6%)して過去最高を更新。前年比でも+4.3%と高い伸びとなった。伸び率は市場予想(前月比+0.4%、前年比+4.0%)を上回った。引き続き、企業の人員確保に向けた賃金引き上げの動きが見られたほか、比較的低賃金の業種で雇用が抑制された事で平均時給が押し上げられたようだ。
(4)総括
米8月雇用統計は、失業率こそ予想通りに低下したものの、非農業部門雇用者数が予想を大幅に下回る冴えない結果となった。これを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)によるテーパリング(量的緩和の段階的な縮小)が後ずれするとの見方からドルは下落した。
ところが、米国債にも売り圧力がかかり長期金利が上昇するなど、市場間で雇用統計に対する反応に温度差が見られた。市場関係者からは、FRBとしてはデルタ変異株の感染拡大の影響を見極めるために、9月21-22日の連邦公開市場委員会(FOMC)ではテーパリング開始のアナウンスを見送らざるを得ないとの見方が出ていた一方、8月末のジャクソンホール会議でパウエルFRB議長が示した「年内のテーパリング開始」のスケジュールを変更するほど弱い内容の雇用統計ではないとの見方も出ていた。
こうした中、当面の市場は9月FOMCでテーパリングの開始がアナウンスされるかどうかを巡り、「手探り」の状態が続くと考えられる。米金融政策当局者の金融政策に関する発言が禁止されるブラックアウト期間(9月11日から23日まで)を前に、FRB高官らの発言に注目が集まりそうだ。